World > Latin America > Caribe > Cuba

Artist

ORQUESTA CASINO DE LA PLAYA

Title

MEMORIES OF CUBA



Japanese Title 国内未発売
Date 1937-1944
Label TUMBAO TCD-003(CH)
CD Release 1991
Rating ★★★★★
Availability ◆◆◆


Review

 30年代のハバナには“浜辺のカジノ”と呼ばれた一大遊興スポットがあった。そこにあったクラブの専属バンドが“オルケスタ・カシーノ・デ・ラ・プラーヤ”である。1937年創設時のメンバーには、ボクサーくずれの白人歌手ミゲリート・バルデース、マンボの生みの親という説もあるピアニスト兼アレンジャーのアンセルモ・サカサスがいた。キューバ音楽のなかのアフロ的な要素を強調(誇張ともいう)し、それにジャズに影響された緻密でぶ厚いアンサンブルをほどこした、いわゆるアフロ・キューバン・サウンドで、たちまちスターダムにのしあがった。

 おもにリッチな白人観光客むけのクラブをホーム・グラウンドにしていたせいだろうか、西欧世界が勝手につくりだした南国の楽園幻想イメージに便乗して、インターナショナルなキューバ音楽に消化している。このあたりは、ヨーロッパで成功したレクォーナ・キューバン・ボーイズ「南京豆売り」ドン・アスピアスらのルンバとよく似ているが、黒っぽいビートを強調したダイナミックな疾走感はマンボを先取りしていたといえるかもしれない。デューク・エリントンが白人むけのダンス・ホール「コットン・クラブ」でジャングル・サウンドを開花させたように、キューバ音楽のエッセンスがコッテリと詰め込まれた濃厚なトロピカル・ジュースである。

 さて、37年から44年までの音源からなるとされる本盤だが、その内容はまったくもってすばらしい。各曲の録音年やくわしいパーソナルが載っていないのは残念だが、全17曲中、ミゲリート・バルデースが4曲、“カスカリータ”こと、オルランド・ゲーラが10曲、アントニオ・デ・ラ・クルースが2曲ヴォーカルをとっている。ピアノとアレンジは、アンセルモ・サカサスのほかに、チャノ・ポゾのファンキーなアフロ'LLORA' を含む4曲に若き日のペレス・プラードが参加している。
 これが、のちに“マンボ・キング”と呼ばれるようになるプラードのレコード・デビューだそうだが、メリハリの効いたド迫力のサウンドはすでに完成の域に達しているといっていい。それをリードするのはパーカッションの一部と化したプラードのピアノだ。カスカリータの黒っぽくイナセな感じのヴォーカルも悪くない。

 プラードがデ・ラ・プラーヤに参加したのは、サカサスが脱退後の41、2年といわれているが、'LLORA' はチャノ・ポソの"EL TAMBOR DE CUBA" (TUMBAO TCD305) にも収録されていて、そのデータによると「1947年録音」とある。また、カスカリータが歌う5曲目から10曲目までは、ピアノ・ソロからしてサカサスではなく、プラードなんじゃないかと思う。あるいは、フリオ・グティエーレスの可能性も捨てられない。いずれにしても、ピアニストがサカサスであることはぜったいない。
 ソン・モントゥーノ'ESTO ES LO ULTIMO' でのカスカリータは、ベニー・モレーをほうふつとさせる熱唱で、もっと評価されていい人物。ちなみに、トゥンバオからは、プラーヤ時代のカスカリータをフィーチャーしたCASCARITA "EL GUARACHERO 1944-1946"(TCD-033)が出ている。こちらも必聴!

 ミゲリートが歌うのはわずか4曲といえ、いずれも見逃すことができない重要曲の目白押しだ。まず、なんといっても、生涯8回も吹き込んだバルデースの代名詞といえる「ババルー」'BABALU' の初レコーディングと、デ・ラ・プラーヤ最初のヒット曲でアルセニオ・ロドリゲスの初期の代表作「ブルーカ・マニーグァ」'BRUCA MANIGUA' だろう。両曲ともすばらしい。残りの2曲も、プエルト・リコの大作曲家ラファエル・エルナンデスの名曲「カチータ」'CACHITA'、キューバの大スタンダード・ナンバー「南京豆売り」'EL MANISERO' というゼイタクこの上ないラインナップ。男っぽいバルデースには最初の2曲がぴったりなのはわかるが、小鳥のさえずりのようにリリカルで繊細な「カチータ」や、優雅でエキゾティックな「南京豆売り」を見事にファンキーなバルデース節に料理してしまっているところが心憎い。バルデースは、40年にデ・ラ・プラーヤを脱退。渡米し、大歌手になったことはいうまでもない。デ・ラ・プラーヤ時代のバルデースは、"ADIOS AFRICA"(TUMBAO TCD-037)"FUFUNANDO"(TUMBAO TCD-054)"MIGUELITO VALDES WITH THE ORQUESTA CASINO DE LA PLAYA"(HARLEQUIN HQ CD 39)"ORQUESTA CASINO DE LA PLAYA"(HARLEQUIN HQ CD51)などでも聴くことができる。これらすべてすばらしい内容で、いずれも必聴といえる。

 バルデースやカスカリータにくらべると、デ・ラ・クルースは野暮ったく、歌のスケールははるかに小さい。だが、デ・ラ・クルースの歌唱力が劣っているぶんだけ、バックの健闘が際立っている。サカサス(とクレジットにはあるが、実際にはグティエーレス?)のピアノもプラードに負けず劣らずすばらしい。
 キューバ音楽ファンならマストなアイテムである。


(12.8.01)
 その後、アルセニオ・ロドリゲスによる大戦前の貴重な音源を復刻したプエルト・リコのレーベルCUBANACANがリリースしたデ・ラ・プラーヤの作品集"CANTANTES DE LA ORQUESTA"(CUCD1704)を入手する。クレジットと実際の曲とがズレているお粗末なつくりではあるが、20曲すべてがCD初復刻ではないだろうか。初代のミゲリート・バルデースから48年のエディ・ゴメスまで、全曲ヴォーカリストがちがうことから、ミゲーリートの脱退後のヴォーカルはすべてゲスト扱いだったのではと思うようになった。

 "MEMORIES OF CUBA"にある録音年'1937-1944'のクレジットはクセモノで、ミゲリート=ヴォーカル、サカサス=ピアノの4曲が37年から40年のいずれかの年、デ・ラ・クルース=ヴォーカル、グティエーレス=ピアノのインスト1曲を含む3曲が41年ごろ、残りの10曲はすべてカスカリータ=ヴォーカル、ペレス・プラード=ピアノで44年の録音ではないかというのがわたしの推理だ。

 ほとんどミゲリートとカスカリータのデ・ラ・プラーヤしか耳にしたことがなかったので、こうして数多のヴォーカリストによる曲を聴いてみるとなんと平凡なサウンドであることか。裏を返せば、ミゲリートとカスカリータ、そしてサカサスとプラードがいかに傑出した存在であったかということである。
 音楽的なすばらしさとは別にわたしの興味を惹くものがあるとすれば、プエルト・リコの歌姫ミルタ・シルバによる'LA COQUETA'マルセリーノ・ゲーラとミゲリートがいっしょに歌っている'LLORA CMPESINO' ってところだろうか。


(7.19.02)


back_ibdex

前の画面に戻る

by Tatsushi Tsukahara